ゆっくりと視線を流して左側を見ると、その壁にも空の絵が飾られていた。


淡い青紫色の朝焼け空に、うっすらと浮かんでいる透き通った白い月。

どこまでも果てしなく続きそうな、雲ひとつない青空。

鮮やかなオレンジ色の夕焼け。

濃紺の夜空にぽっかりと浮かぶ眩しいほどの満月。その光に照らし出された海と砂浜、月明かりを浴びて砂粒がきらきらと輝いている。


美しい空に、私は囲まれていた。

とめどなく涙が溢れ出す。


私の心が惹きつけられてやまないその絵の説明には、『深川 青磁』と書かれていた。


この絵は青磁が描いたのだ。

私の死にかけた心を激しく揺さぶったのは、青磁の絵。


青磁には、空がこんなにも綺麗に見えているんだ。

あの硝子玉の瞳に映る世界は、こんなにも美しいんだ。


床に座り込んだまま、青磁の絵を見つめる。

青磁の目を通して、世界を見る。


一枚だけ、他とは違う絵があった。

オフホワイトの壁に嵌め込まれた無機質なアルミサッシの窓の絵。

その窓の向こうに、青や紫や黄色やオレンジの、複雑な色合いをした空が広がっている。


窓越しに見た綺麗な空の絵。

その空の美しさに、なぜか胸を締めつけられるような切なさを覚える。


不思議な絵だった。