目が離せなかった。

息をするのも忘れて、その絵を見つめ続けていた。


どくどくどく、と高鳴る鼓動の音がうるさいほどだ。


窓の外から聞こえてくるはずの蝉の声も、文化祭の喧騒も、何も聞こえなくなった。


そこにはただ、静かで優しい光、私だけがあった。


気がついたら床の上に座り込んで、呆然と絵を見上げていた。

頬がひやりと冷たく感じて、目の下あたりに触れてみると、涙が流れていた。


目から溢れた涙は頬を伝い、マスクの縁から忍び込んで、中をしっとりと濡らしていた。


泣いてたんだ、と頭の片隅で思う。

なぜ泣いているのかは分からないけれど、その絵を見ていると、心が揺れ動いて涙がどんどん溢れてくるのだ。


それが我ながらおかしくなってきて、気がついたら小さな笑いを洩らしていた。


泣いたのはいつぶりだろう。

笑ったのはいつぶりだろう。


作り笑いではなくて、胸の奥から込み上げてくるような笑いは、いつぶりだろう。

思い出せない。


いつからか、感動的な小説を読んでも純愛の映画を観ても涙が出なくなり、テレビを見ても漫画を読んでも笑わなくなっていた。


心が死んでいたのかもしれない、となんとなく思った。

自覚はなかったけれど、私の心はいつの間にか、呼吸を止めていたのかもしれない。


それが今、息を吹き返した。

この絵を見たことで。