足を止めて廊下の真ん中に佇んでいると、後ろからどんっとぶつかられた。

バランスを崩してよろめき、転んでしまう。


ぶつかってきた男子は私の顔も見ずに「ごめーん」とだけ言って、友達と楽しげに肩を組みながら向こうへ歩いていった。


何人かの女子が「大丈夫?」と声をかけてくれたけれど、覗きこまれたのが嫌で、反射的に顔を俯けた。


へたりこんだまましばらくぼんやりしていたけれど、邪魔になっていることに気づいて、よろよろと立ち上がった。


浮かれて騒がしい雰囲気の中にいるのが居たたまれなくて、本能的にひと気のないほうへと足が向く。


人混みに押され、流されながら長い廊下をゆっくりと進み、人が途切れたところで渡り廊下に入る。

教室展示のない旧館へと繋がるその廊下は、誰も歩いていなかったので、ただ息苦しさを解消したい一心でそちらへ向かった。


だから、そのとき私は、思いもしなかったのだ。


渡り廊下の先に、美術室があるなんて。

美術部の作品が展示してあるなんて。


そこで青磁の絵と出会うことになるなんて。

そして、私の世界が変わることになるなんて。


そのときの私には、思いも寄らないことだった。