「茜」


呼ばれて、振り向く。


渡り廊下の真ん中に青磁が立っていた。

いつものように妙に透き通った硝子玉の瞳で、私をじっと見つめている。


「なに」


ぶっきらぼうに答えながら、ふとあることに気がついた。

青磁の着ているシャツの裾に、真紅の染み。


血のように見えて、思わず一歩近寄って確かめる。

よく見たら絵の具らしく、なんだ、と肩の力が抜けた。


それから、青磁が美術部だということを思い出した。

夏休み、彼がクラスの手伝いをまだやっていない頃にも、彼が学校に来ていたことも。


「……美術部って、文化祭で、何かやるの」


訊きながら、やるに決まってる、と心の中で思った。

文化部にとっては、文化祭は年に一回の活動発表の場だ。

そんな貴重な機会を見送ることはないだろう。


「画廊」


青磁が私をまっすぐに見つめたまま、はっきりと答えた。


「画廊をやる。旧館一階の奥、美術室の前の廊下で」


そう、と答えるしかなかった。

美術には興味がないし、青磁の絵にも別に興味はない。


でも、自分で訊いたわけだし、流すのもおかしいかと思い、「がんばってね」とだけ言って、逃げるように立ち去った。


青磁と向かい合っているのは、つらい。


あの綺麗すぎる顔も、銀色に輝く髪も、まっすぐすぎる瞳も。

人を惹きつけて動かす強さも。


私にはないものばかりで、つらい。