「……じゃ、私はこれで」


もうこれ以上ここにはいたくなくて、青磁の気配を感じたくなくて、俯いたままゆっくりと立ち上がった。

そのまま彼に背を向けて、廊下の奥へ向かおうとする。


でも、ふいに後ろから手を引かれてバランスを崩し、足を止めるしかなくなった。


「……なに?」


振り向かずに声だけで訊ねる。

青磁は黙ったまま、私の腕をつかむ手に力をこめた。


「なんなのよ、やめて」


少し声を尖らせたら、青磁が「言えよ」と言った。


わけが分からず、私はちらりと目をあげて「は?」と返した。


「言え」

「……は? 何、」

「言えって」

「だから、何を?」

「言え、全部」


あまりにも不可解なので、私は顔をあげて青磁を見た。


底が見えないような、奇妙に澄んだ硝子玉の瞳。

光を受けて銀色に輝く前髪の隙間から、私をまっすぐに、怖いくらいまっすぐに見つめている。


薄い唇が開く。

その隙間から漏れ出してきた言葉は、私に向かって鋭く飛んできた。


「言いたいことは、言えよ。思ってることは、口に出せよ」


驚きのあまり何も返せない。

何を言っているんだろう。

どうして彼はこんなことを言うんだろう。


黙りこんだ私を、青磁は険しい面持ちで睨みつけた。


「馬鹿みたいに黙ってんじゃねえよ。だからお前は駄目なんだよ」