迷いのない足取りですたすたと歩く青磁の背中。

白銀の髪がさらさら揺れている。


はなして、と唇だけで呟き、くっと手を後ろへ引いてみたけれど、やっぱりびくともしなかった。


教室の前に辿り着く。

入りたくないな、という気持ちが込み上げてきた。

みんなの顔も、進まない準備の様子も、見たくない。


思わず足が止まり、勢いをそがれた青磁が眉をあげて振り向いた。


「おい、茜」

「………」

「入るぞ」


いや、という私の言葉を、この青磁が聞いてくれるわけもなかった。


私は俯く。

薄汚れた廊下と、色褪せた上履きを睨みつける。


がらりとドアを開け放つ音がした。


「えっ、あれ、青磁?」

「青磁だ!」

「うお、まじで?」


途端に教室の中からいくつもの声があがる。

今まで一度も顔を出していなかった彼がいきなり姿を現したのだから、当然だろう。


「よう、久しぶり」


青磁が私の手をつかんだままドアをくぐった。


「あれっ、茜?」

「どこ行ったのかと思ったら、青磁つかまえて来たんだ」


私が曖昧に笑っていると、青磁は私をつかんでいた手を離して教室の中を回りはじめた。

それから不機嫌そうに眉をひそめて、「おいおい」と呆れたように肩をすくめた。


「なんだよ、これは。ぜんっぜん進んでねえじゃねえか。てかお前ら、何もやってねえじゃん。スマホいじってるだけかよ」