「なんでこんなことするんだよ」

「……別に」

「文化祭の準備か」


驚いて私は目をあげた。

青磁が『やっぱりな』というように眉をあげる。


「どうせあれだろ、文化祭の準備が進まなくて、このままじゃ間に合わないどうしよう、とか考えてんだろ」


何も返せない。

『くだらない、準備なんてどうでもいい』とか、『間に合わなくても死ぬわけじゃないだろ』とか、いつものように横暴なことを言い返されるような気がした。


でも、青磁が続けたのは意外な言葉だった。


「ていうかさあ、俺、全然知らなかったんだけど。教室で準備やってるとか」

「……え」

「なんで言わねえんだよ? この前そこで会ったときにでも言えばよかっただろ、手伝いに来いって。お前が自分で言ったんじゃねえか、協力しろってさあ」


そういえば、そんなことを言った気もした。


クラスで文化祭の話し合いをした日の放課後だったか。

もう二ヶ月以上も前のことだ。


まさか青磁がそんなことを覚えているなんて思ってもみなくて、驚きを隠せない。


「なんでお前はそうなんだよ」


呆れ返った声で彼は言った。

どういう意味か分からず、微かに首を傾げていると、青磁が舌打ちをして私の手をぐっと引いた。


「行くぞ」

「えっ」


どこに、という声をあげる前に、私は青磁に引きずられて前のめりに歩き出した。