感情の波を抑えるために唇を噛んでいるうちに、息が苦しくなってきて、私は無意識に自分の指を見つめた。

いつの間にか、左手の指は全て、爪の周りが傷だらけになっている。


ここ一ヶ月ほどの間にすっかり定着してしまった妙な癖。

爪の縁をペン先で引っ掻いたり刺したりして、血が出るまで傷つけること。


人差し指が生々しい傷で埋まって刺すところがなくなると、次は中指、その次は薬指、というようにどんどん移っていき、

先週末には左手の指が全滅したので、今は右手の人差し指も傷がつき始めている。


私は廊下を少し進んで、教室から離れると、ポケットに忍ばせていたシャーペンを取り出した。

左手でつかみ、右手の人差し指の爪のぎりぎりを刺す。

利き手ではないので力の加減がうまくできなくて、思ったよりも深く刺さってしまった。


びりっと電流が走るような痛みが、指先から腕を駆け抜けて、首から脳へと伝わった。

同時にぷちっと皮膚が弾ける感じがして、小さな血の玉がぷくりと浮いた。


痛い。

ものすごく痛い。


でも、その痛みのおかげで、波立っていた心が少しずつ落ち着いていくのが分かる。

どろどろと渦巻いていた汚なくて暗い感情も、少しは落ち着いた。


もっと、もっと、という気持ちが生まれて、衝動を抑えられず、私はさらにペンを持つ手に力を込める。


ぐさっ、と音がしそうなほどに強く刺すと、頭にびりっと痺れが走った。


他のことなんかどうでもよくなるくらい、痛い。

それが心地よかった。