なんだか息苦しくなってきて、マスクを外して思いきり息を吸い込みたくなる。

私はそっと教室から出て、ひと気のないほうへと歩いていき、誰にも見られる心配のない階段下まで来ると、マスクをつまんで少し浮かせた。

マスク越しではない空気は、新鮮でひやりと冷たいような気がする。


しばらくそうしていると、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。

慌ててマスクをつけ直し、廊下へ戻ろうとする。


その前に、さっと影が落ちた。

見上げると、階段を降りてきた人物が、踊り場の大きな窓から射し込む光を背に受けてこちらを見下ろしている。


「おい」


逆光で顔は見えないけれど、その声を聞けば、ぞんざいな口調を聞けば、誰か分かった。


「……青磁」


思わず呟くと、彼は軽い足取りで階段を降りてきた。

最後の二段を飛ばして、とんっと私の目の前に着地する。


「こんなとこで何してんだよ、茜」

「……別に」

「ふうん?」


たいして興味もなさそうに首を傾げた青磁は、それきり黙りこんで、踊り場の窓を眩しそうに見上げた。


制服の上にだぼだほの黒いTシャツを着ている。

全面に絵の具がこびりついた、妙にカラフルなTシャツだった。


「……部活?」


沈黙に耐えかねて、私もたいして興味などないけれど、そう訊ねた。