青磁は眉根を寄せてから、「あっそ」と言った。


それから興味を失ったようにそっぽを向き、ブランコの鎖を握って立ち上がり、大きくこぎ始めた。


私だって、自分でも驚いているのだ。

マスクをつけていないと落ち着かなくなっていることは分かっていたけれど、まさか、マスクがないだけで吐いてしまうほどまでに悪化しているとは、思ってもみなかった。


私はもしかしたら、マスクがないと、もう外にさえ出られないのかもしれない。

立派な依存症だ。

自分で思っていたよりも危ない状態なのかもしれない。


青磁のこぐブランコの音だけが、きいきいと響く。

私も座ったままで軽くこいだ。


ゆらゆらしながら空を見上げて、目を閉じる。


そよ風が梢を揺らす音が聞こえてきた。

蝉が鳴く声も。

どこかの学校のチャイムの音も。

向こうの国道を走る車の音も。


世界にはたくさんの音が溢れているのだと、当たり前のことに今さら気がつく。

私が聞こうとしていなかっただけなんだ。


そんなことを考えていたとき、ポケットの中の携帯電話が震え出した。

その瞬間、現実に引き戻された気がした。


慌てて取り出し、画面表示を確認すると、お母さんからの電話だ。


「……もしもし」


声が震えた。


『茜!? 今どこにいるの、何してるの!』


お母さんの声で、全身の血の気が一気に引いた気がした。