無意識に腕時計に目を落とす。


「……そろそろ行かなきゃ、本当に遅刻だ」


朝礼が始まる時間まで、あと四十分。

駅まで猛ダッシュで行って、運よくすぐに電車が来てそれに飛び乗り、学校まで全速力で走り続けられれば、ぎりぎりで間に合うかもしれない。


と考えただけでうんざりした。

吐き気はおさまったもののまだ胃がぐねぐねとうねっているような不快感があったし、嘔吐の余韻で全身がだるいし、走れるような状態ではない。


ぼんやりしていると、青磁がいきなり「別に」と声をあげた。


「いいじゃん。別に遅刻くらいしたって死ぬわけじゃねえんだし」


そりゃそうだけど、と思う。

別に死にはしないけど、でも、学校には遅れちゃいけないし、皆勤が。


そこまで考えて、ふと気がついた。

このままでは青磁まで遅刻してしまう。

というか、私のせいで遅刻させてしまう。


「青磁、ごめん、先に学校行って」


声をかけると、彼は勢いをつけてブランコを大きくこぎながら私を見た。

私は青磁を見上げる形になり、夏の朝の鮮やかな青空の中にくっきりと浮かび上がる彼の姿が、なんだか眩しかった。


「お前、なに勘違いしてんの」


空の中の彼が、眉をひそめて言う。