青磁の言葉を聞いて一瞬沈黙した沙耶香が、唐突に「もう!」と明るい声をあげた。


「まーた青磁ってばそんなこと言って! 本当は茜の隣で嬉しいくせに。照れてるんでしょ、どうせ」


あはは、とおかしそうに笑いながら沙耶香が言うと、彼女が作った空気を引き継ぐように、青磁の前の席の亮太が笑い声をあげた。


「青磁はガキだからな、女子の隣とか恥ずかしいんだよな」


亮太がからかうような口調で言い、青磁の肩を叩く。

すると青磁はむっとしたように顔をしかめた。


「は? んなわけねえだろ。照れてるとか恥ずかしいとか、あるわけねえじゃん」


沙耶香と亮太が作った空気が、一瞬で元通りになった。

それから青磁はまっすぐに私を見る。


窓から射し込む正午過ぎの明るい光を背に受けて、ぎろりと私を見る青磁は、私に威圧感を感じさせた。


マスクを引き上げて、これからやって来るであろう衝撃に備える。


「俺は本気で嫌なんだよ」


真顔でそう言いながら、青磁は人差し指を立てて私に向けた。


「茜の顔見るのが」


心の準備をいくらしていても、青磁の言葉は私の心にぐさりと突き刺さった。


私はマスクから出た目を細め、笑みを作る。


「あははっ。なにそれ、むかつくー。冗談きつーい」


なんとか思い通りに笑いを声に滲ませながら、私は青磁に言葉を返した。