もうだめだ、吐く、と思ったとき、


「これに吐け」


と囁く青磁の声がした。

目をあげると、コンビニのレジ袋が目の前に差し出されている。


何かを考える前に、反射的にそれを手に取り、私はおえっと呻きながら胃の中のものを一気に吐き出した。


吐き気が収まるまで何度も嘔吐し、やっとのことで落ち着いたときには、全身を倦怠感が包んでいた。


「……ごめん」


私が吐く間、ずっとそこにいた青磁に、とりあえず謝る。


気持ち悪いとか、汚いとか、言われると思った。

でも、彼は何も言わずに黙ったままだった。


私は吐いたものが入った袋を持ったまま、よろりと立ち上がった。

青磁も同じように腰をあげる。


袋の口を結び、さらに自分が持っていた袋に入れて二重にして、近くのゴミ箱に捨てた。


「……ごめん、行こう。青磁まで遅刻しちゃったら、ごめんね」


そう言って振り向くと、青磁は顔をしかめて「行けるのか?」と呟いた。


「行けるよ。もう吐き気は治まったし。汚いもの見せてごめん。袋、助かった」

「まだ顔、青いぞ」

「大丈夫。すぐ良くなるから」


まだ何かを言いたそうな青磁を置いて、私は駅に向かって歩き出した。

吐いてしまったらすっきりしたので、これなら行ける、と思った。


でも、駅に入ろうとした瞬間、また吐き気が込み上げてした。