私はハンカチを強く口に押し当てて、引きずられるように青磁の背中を追う。


駅が見えてきた。

同じ制服の生徒たちがちらほらと視界に入ってくる。


途端に、また足が動かなくなった。

そして、ぐっと胃の辺りが苦しくなって、それがそのまま軽い吐き気になった。


私が止まったことに気づいた青磁が不機嫌そうな顔で振り向く。

何か言おうと思ったけれど、吐き気が強まってきて、気持ちが悪くて声が出せない。


私は青磁の手を振り払い、口許を押さえて俯く。

立っていられなくて、地面にしゃがみこむ。



「おい、茜?」


青磁も私の前に腰を落とした。


「どうした」


訊ねられても答えられない。

ぐっと胸の奥から何かがせり上がってくる感覚に、私は口を開いた。


うえ、と声が洩れる。


「吐くのか」


青磁の手が私の背中に置かれる。

でも、吐き気で過敏になった身体には、他人から触れられる感覚は不快感でしかなくて、思わず振り払った。


彼はすっと手を引っ込め、じっと私を見ている。


やめて、見ないで、ほっといて。

そう言いたいけれど、言えない。


内臓が口から出てきそうな感覚が何度も繰り返しやってきて、私はぐうっと呻いた。


地面を見つめる視界の端を、たくさんの革靴やスニーカーが通りすぎていく。

でも、その真ん中にある青いスニーカーだけは動かない。