ショックで言葉を失って固まった私に、彼はさらに追い撃ちをかけるように言った。


『お前のこと、大嫌い』


あのときのことを思い出すと、今でも吐きそうなくらい気分が悪くなる。


今考えても、ありえない。

信じられない。

最低、最悪だ。


いくら頭と口が直結してるからって、いくら思ったことは何でも口にする性格だからって、あんなのは最低だ。

誰かに向かって、しかもほとんど初対面のクラスメイトに向かって、『お前が嫌いだ』と告げるなんて、どうかしている。ひどすぎる。

人間としてどうなの。


子供じゃないんだから、たとえ好きになれない人がいても、口に出すべきじゃない。

何も言わずに、そんなに気に入らないならただ距離をおけばいいだけの話。


言われたほうがどんな気持ちになるか、青磁には分からないのだろうか。

ひとの気持ちを考えなさいって小学校で習わなかったのか。


あの日のことを思い出したせいで、私の心の中では暗い感情が激流のように荒れて渦巻いていた。


まさか、またこんなシチュエーションが訪れるなんて。

嫌だ、嫌だ。


手すりをつかむ指に力が入らなくて、足下さえよろけそうだった。


必死に堪える私の横で、青磁はまた、ピーヒャラ、と笛を吹く。


ふざけんな。

どうかしてる、ありえない。

もういやだ、こんなやつと同じ空気なんか吸いたくない。


「おい、茜」


もう一度声をかけられたけれど、私は青磁を押し退けるようにして階段を一気に駆け上がった。


きらいだ、あんたなんか、と心の中で叫びながら。