「おい」


突然、声をかけられて、思わず反射的に振り向いてしまった。

その瞬間、硝子玉のような瞳が私をとらえる。


どくっ、と全身が嫌な音を立てて脈うった。


見ないで、と叫んでしまいたくなる。


その瞳で見ないで。

だって、思い出してしまうから。

今も忘れられない、私の胸に深く突き刺さったあの言葉を。


『俺はお前が嫌いだ』


青磁ははっきりとそう言ったのだ。

硝子玉の瞳で、まっすぐに私をとらえながら。


あれは、二年生になったばかりの四月だった。

今日と同じように、私たちは、誰もいない廊下で鉢合わせた。


青磁はそのとき、中庭の満開の桜を見つめていた。

開け放たれた窓から、風に運ばれた薄桃色の花びらが舞い込んできて、彼の周りでひらひらと踊っていた。


その光景をぼんやりと眺めていたら、ふいに青磁がこちらを向いて、視線が絡み合った。


私は彼に笑いかけた。

あのときはまだマスクをしていなかったから、普通に笑った。

クラスメイトだし、これから仲良くしたいと思って。


一年生の頃から有名だった青磁のことを、私は顔と名前くらいは知っていたけれど、話をしたことはなくて、どんな人間なのかは知らなかった。


青磁も同じだったはずだ。

私は全校集会で表彰されるような特技は何もないので、むしろ彼は私の存在さえ知らなかっただろうと思う。


それなのに、私の足音に振り返った彼はいきなり、廊下のど真ん中で、こちらをじっと見つめながら言ったのだ。

私のことが『嫌い』だと。