「なあ、茜」


青磁が空を見上げながらのんびりと言った。


「お前は、俺がお前の世界を変えたって言ってたけど」

「うん」

「本当は、お前が俺の世界を変えたんだよ」


意味が分からなくて見つめ返す。


「あのとき、物怖じしないお前の姿を見て、俺もこんなふうになりたいって思ったし、病気のときもお前のこと何回も思い出して、苦しいの我慢してた」


今度は気恥ずかしくなって、私も青磁と同じように空を見上げる。


「お前が美術室に来るようになったとき、やばいくらい嬉しかったよ。やっと近づけたって思った。お前が俺の絵を好きだって言ってくれて、描くところを見ててくれるの、めちゃくちゃ嬉しかった」


今日はやけに寒いと思っていたら、空から粉雪がはらはらと降ってきた。

桜の花びらのように。


「なあ、茜」

「うん」

「側にいてほしい」


雪がふわりと頬に触れて、すうっと溶ける。


「……うん。側にいる」


溢れたひとつぶの涙が、雪に混じって頬を濡らした。


「綺麗な空だな」


と青磁が呟いた。

いつもの台詞だけれど、今は照れ隠しなのだと分かって、愛しさがこみあげる。

ぎゅっと手を握ると、ぬくもりに満たされる。


思わず微笑んだら、いきなり視界が塞がれた。

そして、唇にぬくもり。


えっ、と声をあげたら、青磁がにやりと笑った。


「マスク卒業記念だよ」


ぽかんとしていたら、また唇が降ってきた。


「卒業おめでとう」


からかうような言葉だけれど、溢れるほどの優しさが伝わってきて、幸福感に満たされた。

やっぱり青磁が大好きだ。


つないだ手のぬくもり。

この手が凍えてしまわないように、私はいつまでも隣にいよう。





*完