これからの日々に思いを馳せて暗澹たる気分になっていると、青磁とは反対側の右隣に人が立つ気配を感じた。


「わあ、茜の近くだ。嬉しいな」


人懐っこい笑顔で私に声をかけてきたのは、今年はじめて同じクラスになって話すようになった沙耶香だ。


私はマスクのひもをいじりながら笑顔を浮かべ、「ね、嬉しい。よろしくね」と答えた。

マスクの中で自分の声がくぐもって消えていく。


「あ、茜のおとなり青磁なんだ。うるさくなりそうだね」


私の左側に青磁の席があることに気づいた沙耶香がそう声をあげた。

うるさくなりそう、なんて言いながらも、どこか嬉しそうな声の色は隠せていない。


沙耶香までこいつに騙されてる、と私は不愉快になったけれど、そんな気持ちはかけらも表に出さず、私は「ほんと、それ」と笑ってみせた。


「あ? なに、俺の話してる?」


ふいに左から声がした。

こちらに向けられたその声を聞いただけで、心臓がばくばくと早鐘を打ちはじめる。


私はマスクの中でひっそりと深呼吸をして、それからゆっくりと振り向いた。

もちろん、笑顔を貼りつけたまま。


でも、咄嗟に言葉を出すことができない。