「この絵は、再発の可能性があるって言われて検査して、その結果を待ってるときに描いた」


青磁がぎゅっと私の手を握る。


「再発だったらどうしようって、死ぬほど怖くて。ひとりだけ真夜中に取り残されたみたいな気分だった」


私はその手を握り返す。


「そのときに思ったんだ……もしも再発じゃないって分かったら」


青磁が柔らかく微笑んで私を見る。


「真っ暗な夜が明けたら、いちばんに茜に会いたいって」


鼓動が高鳴る。

青磁が絵にこめた想いが、痛いくらいに伝わってきた。


「まあ、いざ再発じゃないって言われても、また同じようなことがあるかもって、また真夜中になるかもって思って、そんなやつが会いにいく資格ないし、茜を幸せにはできないと思ったから、逃げたんだけど」


あまりにもストレートな言葉に、私のほうが恥ずかしくなってきた。

だから、照れ隠しに笑う。


「なにそれ。青磁が私のことめちゃくちゃ好きってこと?」


冗談めかして言ったのに、青磁は真剣な顔で「そうだよ」と答えた。


「俺はお前が好きだ。小学五年のときからずっとだよ。この絵を見たら分かるだろ」


偉そうに胸を張って言う姿があまりにも青磁らしくて、私はこらえきれなくなって声をあげて笑った。


周囲にいた来場客たちが驚いたように視線を向けてくる。

いたたまれなくなった私は「すみません」と小声で謝り、それから青磁の手を引っ張って会場を後にした。


そのまま美術館を出て、駅へと向かう一本道を歩く。