たくさんの絵が並んだ廊下を抜けて、広い部屋に入る。


「それから俺は、毎日毎日、窓から見える空の絵を描いた」


文化祭で見た青磁の絵を、まだ覚えている。


その中でひとつだけ、悲しくて切ない感じのする絵があった。

真っ白な部屋の無機質なアルミサッシに四角く切り取られた空の絵。

あれは、入院していたころに彼が見ていた空だったんだ。


「病室だから油絵の具なんて無理で、だから俺は水彩画が多いんだ。絵の具を買ってきてくれた母親は、空ばっかり描いて飽きないのって笑ってたけど。でも、空は毎日違ってたから、飽きることなかったよ。いつも綺麗で、見るたびに絵に残しておきたくなった」


いちばん最後の部屋に入る。

その奥の壁を占領するように展示された、圧倒的な存在感を放つ青磁の絵。

その中で優しい光に包まれている私。


「俺は、綺麗だと思ったものを、欲しいと思ったものを、自分の手に入れるために絵を描くんだ」


美しい朝焼けの空と桜の花びらに彩られた私を見つめながら、青磁が言った。


「……意味、分かるだろ?」


青磁の横顔はほのかに赤く染まっていた。

ふっと噴き出して、私は「分かる」と頷いた。

それから、絵の下のカードを見つめて呟く。


「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」


つないでいた青磁の手がぴくりと反応した。