青磁がゆっくりと瞬きをして、それから私の手を強く握った。


薄い唇が開いて、は、と微かな息が洩れた。


「……馬鹿だな、お前は。俺なんか好きになって」


むっとして彼の手を握る手にぎゅうっと力をこめる。


「なんか、ってなによ。青磁は『なんか』じゃないよ。私の全てなんだから。私の好きな人を馬鹿にしないで」


真剣に言い返したのに、青磁はおかしそうに噴き出した。


「ねえ、返事は? 側にいたいって言葉の返事は?」

「……ははっ」

「青磁は私のことどう思ってるの?」


青磁がふいに立ち上がり、私の手をつかんだまま歩き出した。

懐かしい感覚。

否応なしに彼に振り回されて、でも、どこかとても素敵なところに連れていってくれるのだという確信できて。


だって、青磁はいつも惜しげもなく、自分が見つけた綺麗なものを私に見せてくれた。


「中学のとき、治療のために入院してるころにさ」


手を繋いで階段を降りているときに、青磁が口を開いた。


「好きだったサッカーが出来なくなって、なんか、病気に生き甲斐まで奪われたって思ってたんだ。毎日、なんにも楽しいことがなくて。身体より先に心が死んだみたいな……」


回廊を巡って、美術展の会場に戻る。


「……でもさ。ベッドに横になって、窓の外を何気なく見たら、空がさ……すげえ綺麗だったんだよ。もうほんと、息が止まるんじゃないかってくらい、心が揺さぶられた」


たくさんの絵の間を抜けて、そこへと向かう。


「あの空が欲しい、って強烈に思った。どうやったら留めておけるか考えて、携帯で写真撮ってみたけど、全然思ったような色にならなくて。じゃあどうするって考えて、絵なら、自分が見たままの感じたままの色を出せるって思ったんだ。そのとき初めて、絵を描いた」