「茜にだけは知られたくなかったのにな……」


え? と首を傾げると、青磁は困ったように微笑んで私を見てきた。


「お前にだけは、こんな情けない自分、知られたくなかった。だって、お前の中では俺はたぶん、いつだって自分に自信があって強くて悩みなんかないやつだろ」


青磁が私から離れていく直前に、私が彼にぶつけてしまった言葉。


『青磁みたいになんでも思い通りで悩みなんかない人間には、私の気持ちなんて分からない』


なんて酷い、無神経な言葉をぶつけてしまったんだろう。

青磁をどれだけ傷つけたか、考えるのもこわかった。


「お前には、俺はなんにも怖れるものなんかない強い人間に見えてるんだろうなって思って……そしたら、弱くて情けないところなんか見られたら嫌われるだろうって思ったんだ」

「そんな……そんなわけないじゃない。私は……」

「だから、お前から逃げたんだよ」


青磁は静かに言った。


「二回目の抗がん剤が運よく合ってたみたいで、どんどん腫瘍が小さくなっていて、半年後には退院できた。でも、再発の可能性があるから、定期的に病院で検査を受けなきゃいけなくてさ」


青磁がときどき学校を休んでいたのはそういうことだったのか、と合点がいった。


「お前と美術室で言い合いになった次の日も検査で病院に行ったんだ。その一ヶ月くらい前に何日間か頭痛が続いたことがあって、もしかしたらってびくびくしながら検査を受けた」


秋ごろに彼が連続で欠席したことを思い出した。


あのとき彼は、再発の不安に怯えていたのだろうか。

能天気にメールを送ったりしていた自分を殴ってやりたい。