「本格的に入院して、手術できない位置に腫瘍があるから放射線治療と抗がん剤治療。副作用が信じられないつらくてさ……それまでの人生の苦痛を全部集めても足りないくらい、苦しくてつらくて、病気よりそっちで死ぬかと思った」


青磁の口から次々とこぼれ落ちてくる弱音。


「でも、あんなに苦しい思いしたのに、一回目の治療ではほとんど腫瘍が小さくならなくて。しばらく身体を休ませたらまた二回目の治療を始めるって言われたんだ。あれは堪えたな……」


いつも自信に満ち溢れていて、誰よりも強く輝いていて、太陽みたいな彼の姿からは想像もできない、苦しみに満ちた横顔。


「なんで俺がこんな目にって叫びたくなったし、俺死ぬのかな、明日の朝は目が覚めないのかもって、毎晩そんなこと思いながらベッドの中で眠れなくて丸くなってた。」


気がついたら私は青磁の手を両手で包みこんでいた。

彼が驚いたようにこちらを見る。


そういえば私から青磁に触れたのは初めてかもしれない。


でも、触れずにはいられなかった。

私の手に力なんてあるとは思えなかったけれど、でも、恐怖に震える子どものような顔をした彼を、どうしても包みこんであげたかった。


青磁の顔が少しずつ歪んでいく。


「本当に、死ぬかもって……めちゃめちゃ怖かった震えが止まらないことも何回もあった」


声が今にも消えそうにかすれる。


「たぶんそのせいなんだろうな、抗がん剤が終わって、抜けきってた髪が生えてきたとき、全部真っ白になってたんだ。あまりにも怖がってたせいだと思う……情けないよな」


硝子玉の瞳が潤んでいる気がしたけれど、確かめる前に彼は顔を背けた。

その代わりに、手を握り返される。

愛おしさがこみあげてきて、私はさらに指に力をこめた。


「情けなくなんかない。誰だってそう思うよ。普通のことだよ」


私の言葉に、青磁が小さく笑って、それから顔を覆った。