青磁が病気をしたことがあるとお兄ちゃんから聞いて、どんな病気だったのか、何度か考えた。

でも、脳腫瘍という病名は、私の予想を遥かにこえた圧倒的な重さを持っていた。


最近、その病気で長年闘病していた芸能人が亡くなったというニュースが頭に浮かび、慌てて打ち消す。


大丈夫。

だって、青磁の病気は過去の話だ。

今はこんなに元気なんだから。


でも、青磁の面持ちの暗さがどうしても気になった。


「中学に入ったあたりから頭痛がひどくて、痛くて痛くて飯も食えないときがあって。これは普通じゃないってことになって、親に病院に連れていかれた。何時間もかけて検査して、とりあえず検査入院ってなって、今度は何日もかけて検査して。最後には医者が血相変えて、脳腫瘍ですって。かなり進んでるからすぐに治療を開始しますって」


ははっ、と青磁が乾いた笑いをもらした。


「母親はぼろぼろ泣いて気絶しかけるし、親父は親父でフリーズするしさ、もう大変だったよ。そのせいで逆に俺は落ち着いた……」


そこまで言って、ふいに青磁は言葉を切った。


「……ごめん。今の、嘘」


こぼれ落ちた言葉に、私は「え?」と彼に目を向けた。


「今のは外向けの嘘。他のやつには見栄張ってそう言ってたけど、お前には……お前にだけは本当のこと言うよ」


黙って続きを待つ。

青磁は寂しそうに笑った。


「本当は、めちゃくちゃショックだった。脳腫瘍って言われて、目の前が真っ暗になって、へこみまくって、絶望した」