それなら、と反射的に言葉がこぼれた。


「それならどうして……私から離れていったの?」


思わず言ってしまった。

青磁の手が止まり、彼が息をのんだ気配がしたから、私は我に帰って顔をあげた。


「あ、ごめん……言わなくていいよ。言いたくないなら言わなくていい」


青磁は遠い目で窓の外の冬景色を見つめている。

それから細く息を吐いて、少し困ったように微笑んで口を開いた。


「いや、いいよ。話すよ。黙ってるの、ずるいよな。お前は俺に、話したくない過去も打ち明けてくれたんだし……」


どこか頼りなさげな表情で、今にも震えそうに聞こえる声で、青磁が言った。

こんな表情の青磁は、こんな声音の青磁は初めてだった。


「茜の兄貴から聞いてるかもしれないけど……中学のとき、病気になったんだ」


私はどんな言葉を返せばいいか分からず、ただ小さく頷いた。


「けっこう大きな病気でさ……」


青磁は膝の上に置いた指先を見つめながら、たしかめるように、ぽつりぽつりと話す。

なんの病気か、気にはなったけれど、訊けない。

でも青磁は自分から教えてくれた。


「……小児がんってやつ」


思わず肩が震えてしまった。

心臓が嫌な音を立てる。

がん、という言葉は、あまりにも重かった。


青磁は眉をさげて笑っていたけれど、とても苦しそうに見えた。


「がんにも色々あるけど……俺の場合は、ここ」


彼が指差したのは、自分のこめかみのあたりだった。


「いわゆる脳腫瘍だよ」