そこでやっと、事態に気づいた大人たちが止めに入って、私たちは引き離されて喧嘩は終わった。


「……あの絵はさ、あのときのこと思い出しながら描いたんだ」


青磁がぽつりと言った。

見ると、色白の頬がほんのり赤く染まっている。


「喧嘩が終わったあと、なんか悔しくて地面に寝転がってたら、肩を叩かれて」


青磁がこちらに目を向けたので、視線が絡み合う。

恥ずかしかったけれど、目を背けることはできなかった。


「目を開けたら、茜がいた」


心臓の音はいつまで経っても落ち着いてくれない。


「風が吹いて、桜の花びらがたくさん舞い落ちてきて、茜の周りをひらひら踊ってた。お前はまだ泣き顔をしてて、目が潤んでて、頬には涙の跡があって」

「……うん」

「でも、笑ってた。満面の笑みで、俺に、『助けてくれてありがとう』って」


そのときの光景が蘇ってくる。


コートの真ん中に砂まみれの服で寝転がって、悔しそうに唇を噛んでいた男の子。

お礼を言おうと思って覗きこんだら、その瞳は、今と同じで硝子玉みたいに澄みきっていて、春の青空を映して煌めいていた。


そのとき、私は思った。


「すげえ綺麗だなって思ったんだよ。その笑顔が」


青磁が静かに言って、でもそれは私の言葉でもあった。