あのとき、殴られるのを覚悟して、私は頭を抱えて目をつむって備えた。


でも、なぜか衝撃は来なかった。

あいつが私を殴る前に、誰かがあいつを殴ったからだ。


驚いて目を開けた私の前で、細っこい男の子が暴れていた。

背も高くて体重もある相手に臆することなく、つかみかかって殴りかかり、逆に殴り返されても、まったく怯まずにまた挑んでいった、私と同い年の男の子。


きつく相手を睨みつける横顔は、とても気が強そうで、でも思いのほか綺麗に整っていて。


……あれは、青磁だった。

あのとき、私を助けてくれた男の子は、青磁だったんだ。


急に動悸が激しくなってくる。

隣にいる青磁を、なぜか直視できなくなってしまった。


そんな私の動揺には気づかず、青磁は話を続ける。


「俺があいつと喧嘩始めたらさ、なぜか茜まで入ってきて、むちゃくちゃだったよな。お前、あいつに髪の毛つかまれて泣き出すし」


そうだ。

二人の殴り合いを、青磁が殴られているのを黙って見ていられなくて、私はそいつに再びつかみかかった。

そしたら、三つ編みにしていた髪をつかまれて引っ張られて、驚きと痛みで泣いてしまったのだ。


「でもお前、泣きながらあいつのこと蹴ってたよな。こいつ強え! って俺まじでびっくりしたんだよ」


それは、青磁が私をかばってくれたからだ。

私の髪をつかんだ太い腕に青磁が噛みついて、そのせいでまた殴られそうになっているのを見て、自然と足が出ていた。