冷蔵庫のドアを開け閉めする音、野菜を水で洗う音、まな板を包丁の刃がとんとんと叩くリズミカルな音。

心地よい音を聞きながら、クッションをかかえてぼんやりと座っていたら、唐突に、


「あいつか?」


とお兄ちゃんが言った。

意味が分からなくて台所に目を向けると、お兄ちゃんは手許に視線を落としたまま、また口を開いた。


「お前がそんなふうになってるのは、あいつのせいか?」

「え……?」


予想外の言葉に、返す言葉を探していると、お兄ちゃんが顔をあげてまっすぐにこちらを見た。


「青磁だろ、あいつ」


息が止まるかと思った。

どうしてお兄ちゃんが青磁のことを知っているのか、わけが分からなくて何も言えない。


「名字はなんだったか……。たしか、深……田? 違うな、深川か」

「なんで……知ってるの?」


ぽかんとしたまま訊ねると、今度はお兄ちゃんのほうが変な顔になった。


「は? なに言ってんの、お前」

「え、え?」

「俺のほうが知ってるに決まってるだろ」


お兄ちゃんは一体、なにの話をしているんだろう。

どうしてお兄ちゃんが青磁のことを知っているんだろう。

しかも、私よりも知っているというのは、どういうことだろう。


唖然としていると、お兄ちゃんが料理の手を止めてこちらへやってきた。