家に帰ると、リビングは真っ暗だった。


空っぽのダイニングテーブルをぼんやりと眺めているうちに、玲奈の保育園の行事があったことを思い出した。

お母さんと玲奈は帰りが遅くなるだろう。


ふらふらと歩いてソファに身体を埋ずめる。

そのまま横になって、なにも映っていないテレビの黒い画面を見つめていた。


しばらくそうしていると、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。

でも、身体を起こす気力がない。


階段を降りきったお兄ちゃんがリビングに入ってきて、ぱっと明かりが灯る。

途端に「茜、いたのか」と驚いたような声が聞こえた。


「電気くらいつけろよ、びっくりするだろ」

「……うん……ごめん」


上の空で謝ると、足音が近づいてくる。

お兄ちゃんが怪訝な顔で覗きこんできた。


「……どうしたんだよ。なんか暗いぞ」

「ううん、なんでもない……あ、ごはん作るね」


ゆっくりと身を起こすと、「いいよ」とお兄ちゃんに止められた。


「具合が悪いんだろ。休んどけ」

「え……でも」

「俺がなんか作るよ。大したものはできないけど」


そういえば、お兄ちゃんは不登校になる前までは、ときどき家族にご飯を作ってくれることがあった。

私が答える前に、お兄ちゃんは台所に入って手を洗いはじめた。


なにか手伝おうかと立ち上がりかけたけれど、「座ってろ」とカウンター越しに言われて、その言葉に甘えることにする。