青磁は無言だった。

私なんていないかのように、ただ静かに探している。


私は自分が透明人間になったかのような錯覚をおぼえた。


ぼんやりと資料の山を見ていて、ふと奥のほうに、周りの山に隠されるように目的のものが置かれているのが目に入った。


先生はもしかして、時間がかかるようにわざとこんな見つけにくい場所に置いたんじゃないだろうか。

たぶん、そういう気がする。


生徒の恋愛にこんなに協力的だなんて、変な先生だ。


前に置いてある資料をよけて、クラス分の冊子を手前に引き寄せようとしていると、ふいに横から手が伸びてきた。


びくりと肩が震える。

その間に、青磁の長い指が周りの資料をよけて道をつくった。


俯いたまま、ありがとう、と呟いて、奥の冊子を引き寄せる。

真ん中から上の部分、約二十冊分を持ち上げて抱えると、ずしりと重かった。


青磁が残り半分を抱えたのを確認して、私は教室棟に向かって歩き出そうとする。


すると、また横から手が伸びてきて、私の抱えている冊子の半分ほどをさらっていった。


「え……っ」


心臓が音を立てる。


「………」


驚く私をよそに、青磁は無言のまま歩き出した。

その後ろ姿に声をかける。


「……っ、ありがとう」


彼はやっぱりなにも答えてはくれなかったけれど、その背中には、このところの冷たさはないような気がした。