「へいへーい」


青磁が気だるげに答えて、ゆっくりと踵を返した。

そして、私をちらりとも見ずに横をすり抜けていく。


「……丹羽」


思わず俯きかけたときに、声をかけられて目を向けると、先生が少し困ったように微笑んで私を見ていた。


「頼んだぞ」


それは、進路ノートのことなのか、それとも以前言っていたように青磁のことなのか。

聞いただけでは分からなかったけれど、もし後者のほうだとしたら、もうきっと私にはどうしようもないことだ。


だから、私はなにも答えずに頭だけを下げて先生の前を離れた。


階段をのぼり、四階へ向かう。

本当はもう教室に戻りたかった。

たぶん青磁も私なんかと仕事をするのは嫌だろうし、私も気まずい。


でも、クラス全員ぶんの冊子ということは、かなりの量になるだろうから、きっと一人では運べない。

仕方なく私は重い足どりで進路指導室へと足を運んだ。


ドアの前の机に、冊子が大量に山積みになっている。

この中から、うちのクラスの分を探し出さないといけないらしい。


青磁がノートの山に視線を滑らせていたから、私は少し離れたところに佇み、彼が見つけるのを待とうと思っていた。

でも、なかなか見つからないらしく、さすがに任せっきりにしておけなくて、私は黙って近づいた。


青磁の隣に立つ。

彼が少し身じろぎをした拍子に、ある香りがふわりと鼻をくすぐった。

青い果実のような、柑橘のように爽やかな、青磁のにおい。


懐かしさに胸が苦しくなる。

この香りを、私は誰よりも近くで感じていたはずなのに。


今は、真横にいても、誰よりも遠い。