「……茜、大丈夫?」


休み時間、机に突っ伏して微動だにせずにいたら、沙耶香が心配そうに声をかけてきた。

私はわずかに顔をあげて、マスクの中で「大丈夫」と答え、そのまま再び顔を伏せる。


それでも沙耶香は離れず、私の横で様子をうかがっているようだった。


「具合、悪いの? 保健室行く?」

「いい、ほんとに平気」

「でも……」


そのとき、後ろを誰かが通る気配がした。


分かりたくもないのに分かってしまう。

青磁の足音だ。


「あ、ねえ、せい……」


沙耶香が彼を呼び止めようとしたのが分かって、私は反射的に彼女の腕を強く引いた。


「えっ、茜、どうしたの」

「だめ、呼ばないで」

「え……、でも、青磁に保健室連れてってもらおうかと思って」

「ううん、だめ。呼ばなくていい。青磁は……」


言葉が続かなかった。

すがるように沙耶香を見上げていると、なにかを察したようで、彼女は青磁から視線をそらした。


「……私は大丈夫だから。心配してくれてありがとう」


そう言って手を離すと、沙耶香は私の前の席に腰を下ろした。


「どうしたの? 青磁と喧嘩でもした?」

「……ううん。そういうのじゃなくて」

「うん」

「……もう、終わり」


的確な表現が思いつかなくて、そう言うしかなかった。


「もうあいつとは縁が切れたっていうか……これまでみたいに一緒にいたりするの、やめたの」


沙耶香が息を呑んだ。