「みんなから見たら、あいつは飄々として風みたいに自由で、なんにも悩みなんか無さそうに見えるだろ」

「……はい」

「でもな、あいつの心には、簡単には言葉にできないような苦悩が……なんていえばいいかな、深い闇みたいなものが、あるんだよ」


先生の声音は、今まで聞いたことがないくらい、重々しくて真剣だった。

それが青磁の秘密の大きさを、その苦しみの深さを、物語っているのだと思った。


「でも、それは一人では抱えきれないような、とても重いものだ」

「……はい」

「だからな」


先生はそこで言葉を切って、強い眼差しで私を見つめる。


「お前があいつを支えてやってほしいと、先生は思ってる」


なにも言えずにただ視線を返していると、先生が緊張の糸を切るように目を細めた。


「これ以上は、言えない。あとはお前たちの間のことだから、お前に任せるよ」

「はい」


あまりにも隠れた部分の多すぎる言葉で、先生がなにを伝えたいのか、全てを理解することはできなかった。

それでも、先生が私と青磁のことを真剣に考えてくれているのだと分かって、私は大きく頷いた。

「失礼します」と頭を下げて職員室を出るとき、先生が「あのな」と声をかけてきた。


「深川の休みのことは、あんまり深刻にとらえなくてもいいぞ。まだ分からないから」


まだ分からないって、なにが? と訊き返したい気持ちを押さえて、私は「はい」とだけ答えた。