項垂れて踵を返そうとしたとき、先生が「丹羽」と呼び止めてきた。


「はい……」

「お前、変わったな」


唐突な言葉に動きを止めて振り向くと、先生が微笑んで私を見つめている。


「……え?」

「前までは、今みたいに自分の気持ちをぶつけてきたりしなかっただろう。いつも周りに気を遣って、自分の気持ちは圧し殺してただろう」


意外だった。

まさか先生にまでそんなふうに思われていたなんて。


「意外って顔してるな」

「……いえ」

「これでも色んな生徒見てきてるからな、なんとなく分かるよ」


先生がおかしそうに笑いながら言った。


「お前は家のことも大変みたいだし、学校でも優等生で頑張ってくれてるし、どこにいても力が抜けなかったんだろう」

「………」

「でも、今は深川とよく一緒にいるよな。あいつみたいな自由なやつの横にいたら、お前も少しは息が抜けるんだろうと思って見てたよ」


はい、と答えたけれど、声がかすれてしまった。

先生が腕を組んで、うんうん、と何度も首を縦に振る。


「深川がお前を変えてくれたんだろうな」


はい、と、今度ははっきりと声に出して頷いた。

少し口を閉ざしてから、先生がゆっくりと言葉を続ける。


「……詳しいことは言えないけどな。深川には、普段見せてるのと違う顔がある」


なにか大事なことを先生が言おうとしているのだとわかって、私はじっとその目を見つめ返した。