どれくらい経ったころだろうか。

なかなか収まってくれない嗚咽の合間に、ドアの向こうの廊下をこちらへ近づいてくる足音を、鼓膜がとらえた。


反射的に口を押さえる。

ちらりと振り向いてドアの鍵を確認して、きちんと施錠しておいたことにほっとする。


ぎゅっと唇を噛んで、声が洩れないようにしたつもりだった。

でも。


「おい、茜」


ドア越しにまっすぐ突き刺さる声。


「開けろ」


容赦なく命じられて、私はさらに息を殺した。


「そこにいるんだろ、分かってるんだぞ」


高圧的な青磁の口調に、これはどうやらごまかせそうもない、と諦めた。


ゆっくりと立ち上がり、鍵をかちゃりと開ける。

その途端にがらりとドアが開いて、青磁が顔を出した。


俯いて一歩下がると、青磁がするりと中に入ってきた。


「聞いたぞ」


どくっと心臓が跳ねる。

なんのこと、と訊くまでもなく、青磁が続きを口にした。


「沙耶香が俺に謝ってきた。茜のこと傷つけちゃったって。どこかに行っちゃったから迎えに行ってあげてって」

「………」

「あいつ、すげえ慌ててたぞ。心配してたし。あとで謝っとけよ」


手を振り払われてショックを受けていた沙耶香の顔が目に浮かぶ。

申し訳ないとは思っている。

でも、抑えきれない複雑な感情が込み上げてきて止まらない。


どうして青磁に言っちゃったの?

私は彼にだけは知られたくなかった。

こんなに情けなくて醜い自分を、青磁には見られたくなかった。