「じゃ、青磁のこと好きなんだ」


沙耶香はくすくすと笑ってそう言った。


青磁が好き。

それは、自分の中では何度も考えたことだけれど、言葉にしたことは一度もなかった。


しかもそれを人の口から言われたことで、一瞬にして動悸が激しくなった。


顔から火が出るんじゃないか、と思うくらい、紅潮しているのが見なくても分かる。

マスクで隠れて分からないかな、と思ったけれど、鋭い沙耶香にはやっぱり気づかれてしまった。


「あははっ、真っ赤だし。図星でしょ」


彼女は笑いをこらえもせずに言った。


「いや……まあ、うーん……そういうことかな」


ここまで来てごまかしたり嘘をついたりするのも意味がないと思って、素直に認める。

顔が熱くてどうにかなりそうだ。


「そっかあ、茜が青磁をねえ」

「………」

「うん、なんか、いいよ。お似合いだと思うよ」

「そう、かな……?」


うんうん、と沙耶香が頷きながら玉子焼きをもぐもぐと噛む。

私は気分的にお弁当どころではなくなってしまって、まだ一口も食べていない。


「でも、あれだね。青磁って変わり者だからさ、あいつが女子と付き合ったりするの、なんか想像できない」


その言葉に、私は「やっぱり?」と返す。

私も同じことを思っていた。


「茜もそう思う? やっぱり。青磁ってさ、付き合うとか興味あるのかなあ。彼女と買い物デートして、アクセサリーのプレゼントして……みたいなの、全く知らなそうじゃない?」

「そりゃあね、青磁だもん」


こくこくと頷きながら、沙耶香はよく分かっているなと感心した。