四人で晩ご飯を食べ終えて、洗い物をしようとシンクの前に立ったところで、玄関で鍵を開ける音がした。


「お帰りなさい」


リビングに入ってきたお父さんに声をかけると、優しげな笑顔で「ただいま、茜ちゃん」と返ってきた。


「先にご飯にする?」


お父さん、と付け加えることはできなかった。

私はまだこの人を面と向かって『お父さん』と呼べたことがない。


「ああ、頼むよ」


お父さんはそう言って洗面所の方へ歩いていった。


お母さんは玲奈をお風呂に入れるところだ。

だから、食事の用意は私がするしかない。


ラップをかけておいたハンバーグを軽く焼き直して皿に盛り付け、ごはんとスープも持っていく。


「いただきます」


お父さんはいつも礼儀正しく手を合わせて挨拶をする。

背筋を伸ばしてしゃんとした姿勢で食事をする顔を、私は洗い物をしながらちらりと見た。


当たり前だけれど、お父さんと私は似ていない。

お母さんがこの人と再婚したのは五年前、私が十二歳のときだった。

一年後、玲奈が生まれた。


お父さんはとても穏やかな人で、お母さんの連れ子である私とお兄ちゃんに対しても、実の娘である玲奈と同じように優しく接してくれる。


いい人だと思う。

でも、やっぱり、『お父さん』と呼びかけるのは難しい。