「ここ、見晴らしいいよね」


街を見下ろしている横顔に声をかけると、青磁はふっと笑みを浮かべて「ああ」と頷いた。


「綺麗だ」


私も彼と同じように、目の前に広がる景色を見つめる。

静まり返った早朝の街は、どこを見ても青みがかっていて、まるで現実世界ではないみたいに幻想的だった。


「うん、綺麗だね」


まだ夢の中にいるようにひっそりと肩を寄せ合う家々、控えめに鳴く鳥の声、ときどき遠くから聞こえてくる車のエンジン音。


青白い街を包み込むように広がる空は、紺から濃い紫、青から水色へのグラデーションを見せている。

地平線のあたりは、少し白んできていた。

日の出が近いのだ。


「ちょっと急ごう。ここから十分くらい歩くから」


そう言って再び歩き出した青磁の歩幅は、さほど急いでいるようでもないのに私よりもずいぶん大きくて、さっきまでは私の歩くスピードに合わせてくれていたのだと気がついた。

それが妙にくすぐったくて、私は空を見上げる。


夜側の空には、小さな星が二つ、三つ瞬いていた。

朝側の空には、白い月がうっすらと浮かんでいた。


は、と息を吐くたびに、マスクの中が温かくなる。

アスファルトを蹴る青磁の靴の音に、私の足音も重なった。


世界は私たち二人のためだけにあるような、そんな馬鹿な感覚を抱いてしまうほど、ここには私たちしかいない。