「ただいまー!」


ハンバーグを焼いていると、玄関から舌足らずな声が聞こえてきた。

妹の玲奈だ。


「わあ、いいにおいするー!」


手も洗わずに台所に入ってきたので、「こら、手洗いうがいは?」ととがめると、玲奈は不満げに唇を尖らせて私の腰のあたりを叩いた。


「玲奈、そんなことしちゃだめでしょ」

「おねえちゃん、いじわる!」


謝りもせずに駆け出してしまった小さな背中にため息が出てしまう。


最近、玲奈は言うことを聞かなくなってきた。

乱暴なしぐさをすることも多い。

これからもっと大変になるのかな、と思うと憂鬱だった。


生まれたばかりのころは本当に可愛くて、妹ができたのも嬉しかったから、お母さんに頼まれなくてもよく世話を焼いていた。

でも、三歳になったくらいからわがままを言うようになり、私に当たることが多くなって、手を焼くようになった。


「こらー、玲奈! 手洗いうがいとお着替えするよ!」

「やだー!」


お母さんが玲奈を追いかける足音。

それがうるさかったのか、お兄ちゃんの部屋からどんっと物を叩くような音がする。


また、ため息が出た。

ため息をつくと幸せが逃げるとか言うけれど、私はたぶん、一生分の幸せを逃がしてしまっているんじゃないかと思う。