「本当の、お前は……」


繰り返した青磁の言葉は、そこで呑み込まれた。


「本当の私……? どういうこと?」


彼がなにを指してそう言っているのか分からなかった。

私は青磁に、本当の自分なんか見せたことがあっただろうか。


小学生の頃にあのことがあってから、私は誰に対しても、自分の気持ちや言葉を隠して生きてきた。

その癖は、青磁と出会った今だって変えられていない。


彼の前ではリラックスできるけれど、全てをさらけ出しているわけではない。


青磁の言葉の意味を読み解こうと、その顔をじっと見つめていたら、それまで黙っていた彼がふいに口を開いた。


「分かるんだよ、俺には。本当のお前が――お前の色が、見えるんだよ」


なにも言えずにいると、彼は少し笑った。

なぜだか悲しげに見える笑みだった。


風が吹く。

青磁の髪がなびいて、銀色に輝く。


ふと、その話を彼にしてみたくなって、私は「あのね」と口を開いた。


「最近読んだ本にね、こんな言葉があったの」

「ん?」


青磁が筆で青の絵の具をすくいながら首を少し傾ける。


「夜が明けたときに、綺麗な朝焼けを見ながら、会いたいと思った人が、その人にとって本当に大切な人なんだって」


青い絵の具に、少しだけ赤が加えられる。

途端に二つの色が混じり合って、綺麗な紫色が生まれる。


「ふうん……」


青磁はそれだけ言って、真っ白なスケッチブックを紫に染めた。