青磁が傘を差してくれているので、私は両手が空いている。

冬先の雨で冷えきった掌を、咄嗟に頬に当てた。


凍えた指先を溶かしそうなほどに熱い頬。


なにこれ、と心の中で戸惑いながら叫ぶ。


これは、どういうことだ。

普通に考えれば、まあ、そういうことだ。


ちらりと斜め上を見る。

満足げに自分の新作の絵を眺めている、能天気な横顔。


それを見た瞬間に、鼓動が早くなるのを自覚した。


これは、やっぱり、


「……そういうこと? うそ、ほんとに?」


思わず声が出てしまった。


「は? なんか言ったか?」


青磁が訝しげに見下ろしてくる。


その拍子にまた、腕が触れ合った。

どくん、と心臓が跳ねる。


私は慌てて「なんでもない」と首を振り、青磁と反対側を見上げて、彼の空の絵を見つめた。


晴れればいいのに、と何気なく私が言ったら、青磁がこの絵を描いてくれた。

普段は使わない絵の具を使って、普段のようにキャンバスやスケッチブックを使わずに。

私のためにわざわざ、特別なことをしてくれた。


私のためだけの綺麗な空を、私に見せてくれた。


そのことが照れくさくて、でも本当に嬉しくて。


――好きだ。


と思った。


私は青磁が好きだ。


……どうやら、そういうことらしい。