なにがなにやら分からず、私は無言でそちらを見るしかない。


私の独り言を聞いて「しょうがねえな」と立ち上がったのだから、なにか私に関係のあることなのだろうと思った。

けれど、絵の具を取りに行っただけなら、私には無関係なのだろうか。


でも、アクリル絵の具?

小学校のときに図画工作の授業で使ったことはあるけれど、美術室で絵を描くときに使われているイメージはなかった。

油絵の具か水彩絵の具を使うのが普通だろう。


どうして青磁はいきなりアクリル絵の具なんて言い出したんだろう?


考えているうちに、二人が美術室から出てきた。

青磁の手には、絵の具が入っているらしい小箱が抱えられている。


「何年か前の文化祭で使ったものらしいから、乾いちゃってるかもしれないけど」

「あー、まあ、なんとかなるよ。これ水溶性だろ? 水で溶かせばいいから」

「まあ、そうね。アクリルで描くの? 珍しい」

「速く乾いて、耐水性あるのじゃないと駄目だから」


二人の会話を聞きながら、図画工作の授業で習ったことをふいに思い出した。

たしかアクリル絵の具は、水彩絵の具のように簡単に水で薄めて使うことも、油絵の具のように厚く塗り重ねることもできて、両方の利点を合わせた画材。

しかも油絵の具より速く乾いて、完全に乾くと水に溶けない強い耐水性もある。


便利な絵の具だなあ、と思ったのを覚えている。