「雨」


言葉が口をついて出た。


「雨?」


青磁が首をかしげる。


「そう、雨」


もう一度くりかえすと、彼は「はあ?」と気の抜けたような返事をした。

なにか言わなきゃ、と焦りがふくらんで、思いつくままに適当に言葉を並べる。


「ほら、なんていうの、雨だとちょっと気分が下がるでしょ? なんか憂鬱だなあ、みたいな」

「そうか?」

「そうだよ。だって、服が濡れちゃうし、靴下とか靴がびちょびちょになったら一日落ち込まない?」

「まあ、それはそうだけど、傘さして防水の靴履けばいいことじゃね?」

「だから、そういう物理的なことじゃなくて。精神的にさ、どんより曇って薄暗くて、湿気が多くて、外に出たら濡れちゃって、ってなると、なんとなく気分が乗らないでしょ」


青磁は「へえ」と意外な話でも聞いたような顔をした。


私が言った内容は、それほど変わったことでもない気がするけれど、人とは違う感覚で生きる青磁からしたら、驚くような話なのかもしれない。


青磁はきっと、雨の日には雨の日の美しさがあると知っていて、綺麗なものをたくさん見つけることができるに違いない。


そんなやりとりをしているうちに、いつの間にか美術室に着いていた。


「おっす」

「こんにちはー」


二人で同時に声をあげながら、ドアを開けて中に入る。


部員たちは相変わらず、それぞれの反応だった。