「おっはよー、青磁」


道のりの半分あたりまで来たところで、後ろから自転車で走ってきた男子がスピードを緩めて青磁の横についた。


二人きりの状況に耐えきれなくなっていた私は、内心ほっと息をついたけれど、青磁がそちらに顔を向けて話し始めたことに少し寂しさを覚える。


すると、彼と喋っていた男子が私に目を向け、「あっ」と目を丸くした。


「ごめん、邪魔したな!」


そう言って颯爽と自転車を漕いで去って行った。


他のクラスの知らない男子にまで、青磁と付き合っていると勘違いされているらしい。

そのことに最近は慣れてきたはずなのに、今日は妙に気恥ずかしくて、そう感じてしまう自分の心の動きが納得できなくて、私は黙りこんだ。


また、気まずい沈黙。

突然声をかけてきて、そのくせさっさと行ってしまったあの男子が恨めしい。


「なんか、すかすかになったな」


青磁が唐突に声をあげた。

ちらりと顔をあげると、彼はイチョウの木を見上げている。


ここ数日の雨でほとんどの葉が落ちたイチョウ並木は、ずいぶんと寂しい姿になっていた。

隙間だらけの梢の向こうに、淡く曇った空が見える。


青磁はいつものように空を仰いでいた。

どうやら、気まずいのは私だけらしい。


むかついて、「冬が来るね」と言いながらその背中をばしんと叩いてやると、青磁は「うおっ、なんで?」と目を瞬かせた。

その反応に少し満足して、私は「遅刻するから急ぐよ!」と傘を持ったまま駆け出した。