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「あれ? 茜、今日は青磁いないの?」
朝、席についてマフラーをたたんでいると、沙耶香に声をかけられた。
「うん、いないね」
「一緒に来なかったの? なんで?」
「……あのさ、何度も言うけど、別に毎朝待ち合わせしてるわけじゃないからね? たまたま駅で一緒になったときだけ……」
「あーはいはい、分かってるって! もう、ほんと照れ屋なんだから」
「………」
沙耶香はしたり顔で頷いているけれど、やっぱり勘違いされている。
この前、青磁が私を連れ出して二人で授業をさぼって以来、クラスのみんなの間では、完全に私たちは付き合っているということになっているらしい。
仕方がないと思う。
あんなふうに二人で教室を脱け出して、一時間戻らなかったわけだから、普通に考えてそういうことだと認識されるだろう。
私だって他人事だったらそう思う。
でも、私と青磁は相変わらず、放課後を共に過ごすだけの関係だ。
共に過ごすというより、私が青磁の隣で好きなことをしているだけ。
最近は彼が絵を描いている横で本を読むのが習慣になっている。
誰もいない別世界のような屋上で、空気のような青磁と一緒にそれぞれ好きに過ごす時間を、私はけっこう気に入っていた。