「いちばん最初に私と青磁がしゃべったときのこと、覚えてる?」


そう訊ねると、青磁は目を見開き、「えっ?」と声をあげた。

これは覚えてなさそうだな、と察して、


「今年の四月、同じクラスになったばっかりのころ、誰もいない廊下で」


と付け加える。

すると青磁が、「ああ、なんだ、あのときか」と頷いた。


よくあることだと思うけれど、言われた私は絶対に忘れられないのに、言った青磁のほうはすっかり忘れているらしい。


「あのとき、青磁が言ったでしょ。俺はお前が嫌いだ、って」

「ああ、言ったな」


意外にもそんな返事が帰ってきたので驚く。


「覚えてるの?」

「覚えてるよ」

「そう。あのときはびっくりしたんだからね。ほぼ初対面なのに、いきなり嫌いとか言われて」

「だって、嫌いだったんだよ。あのころのお前、作り笑いで誰にでもへらへらして、反吐が出そうだった」


そうだ、青磁はそういうやつだ。

今ならそう思える。


でも、あのときの私は、言いようもないほどのショックを受けたのだ。

『嫌われないように』全力を尽くして生きてきたのに、それが上手くいっていると思っていたのに、突然『嫌いだ』の宣言されて、鈍器で殴られたような衝撃だった。