人に嫌われないためにはどうすればいいかを考えて、『いつもにこにこ笑っていることだ』という結論に至った。


腹が立ったからといって不機嫌な顔をしてはいけないし、誰かが間違ったことをしたからといって怒ってはいけない。

いつも笑顔でいれば、とりあえず、嫌われたり疎まれたりすることはないはずだ。


それで私は、テレビや雑誌で『好感度が高い』と言われている女優やアイドルの笑い方を真似することにした。

雑誌の写真を見て彼女たちの笑顔を観察しながら、自分も鏡の前で笑顔を作ってみる。

目を適度に細めて、口角をバランスよく上げて、歯はあまり見えすぎないように。


馬鹿らしいことだと思うけれど、当時の私は必死だった。


そうやって少しずつ作り笑いに慣れていき、いつの間にか、笑顔を浮かべているほうが落ち着くようになった。


中学の友達には『いつも笑顔だよね』とか、『茜って本当に優しいよね』とか、『茜のこと嫌いな子なんて絶対いないよね』と言われて、

『そんなことないよ』と答えつつも内心では大満足だった。


私は生まれ変わることに成功したのだと思った。

これからはうまく生きていけると自信を持てた。


高校に入ってからも私は、『誰からも好かれる優等生』を上手く演じていた。

もう二度とあんな目には遭わなくてすむんだ、と嬉しく思っていた。


「……思ってたのに、青磁と会っちゃったんだよね」


苦笑しながらそう言うと、隣で黙って話を聞いてくれていた彼が、ぴくりと眉をあげた。