「茜、いいもん見せてやる。上、向いてな」


私は素直に指示に従う。


頭上には爽やかな秋晴れの、雲ひとつない青空が果てしなく広がっていた。


「せーの!」


青磁がかけ声をあげた瞬間、


「わ……っ」


私も思わず驚きの声をあげた。


水鉄砲から飛び出した水の弾丸が、空へ向かってまっすぐに飛んでいく。

大きく放物線を描きながら、頂点まで来ると一瞬とまり、まとまっていた水がばらけて散り散りになる。

無数の水滴が宙に浮かび、それから重力に従って一斉に降りてくる。

スローモーションで降ってくる。

大きい滴、小さい滴、一粒一粒が陽の光を受けて、きらきらと輝きを放つ。

水滴の中で屈折した光線が拡散して、一気に周囲が明るくなった気さえした。


ぱらぱらと降り注ぐ光の滴を全身で受け止め、私は呆然とした。


「綺麗……」


呟くと、青磁がははっと笑った。


「よっしゃ、もう一発」


再び水の弾丸が空に放たれ、光をはらんだ滴になって降り注ぐ。


「なあ、茜」

「うん」

「見えるか、あの滴に映ってる世界が」


私は瞬きも忘れて、宙を舞う水滴を見つめる。


「あの一粒の滴に、世界の全てが映ってるんだよ。すげえよな」


少し歪な丸の形をした滴たちは、目を凝らしてみると確かに、その表面にこの世界を映していた。


空も、樹々も、校舎も、グラウンドも、国道も、住宅街も、なにもかも。

三百六十度すべての景色が、たった一粒の水滴に吸い込まれている。