ひとことでは表せない、複雑な美術室のにおい。

それが鼻腔をくすぐると、不思議なほどに気持ちが落ち着いた。


「そこ、座ってな」


青磁が顎で指した椅子に腰かける。


ピークは過ぎたけれど、まだ涙は溢れ出しつづけていた。

ポケットからハンカチを出して目を押さえる。


「……うっ、ひっく、う……」


しゃくりあげながらじっとしていると、隣に青磁が座る気配がした。

でも、泣き顔はやっぱりあまり見られたくなくて、そのままハンカチで顔を隠したままでいる。


すると、なにか固いものをぶつけるような、こんこんという音がしはじめた。

それから、がりがりとなにかを削るような音。


さすがに不思議に思って横を見る。

青磁がペットボトルを左手に、右手に錐のようなものを持って、なにか細かい作業をしていた。


なにをしているんだろう。

ひとが傷ついて泣いている横で。


まあ、それが青磁だ。

変に慰めの言葉をかけられたりするよりも、こっちも気楽に泣いていられる。


そう思ったけれど、青磁の気ままな振る舞いを見ているうちに涙は引っ込んでしまっていた。


「……なに、してるの」

「んー? 工作」

「ふうん……」


青磁は絵だけじゃなくて、工作もするのだろうか。

知らなかったけれど、器用な彼のことだから、物作りも好きそうだ。