みんなが私を見ている。

怪訝な顔で見ている。


どうしよう、どうしよう、なにか言わなきゃ、号令をかけなきゃ、でも声が出ない。


混乱した頭の中でぐるぐると考えが駆け巡る。

そのときだった。


「茜」


左側から声がした。

青磁だ。


授業中はいつも窓の外の空を見ている青磁が、今はまっすぐに私に目を向けている。


「行くぞ」


唐突にそんなことを言われても、理解できるわけがない。

固まったまま見つめ返していると、彼はがたんと音を立てて立ち上がった。


教室中の視線が青磁に集まる。

自分に向けられていた注目の矛先が変わったことで、少し肩の力が抜けた。


席を立って私の真横に立った青磁は、無言のまま私の手首をつかむ。

そのままつかつかと歩き出した。

引きずられるように私も歩き出す。


みんながぽかんとした顔で私たちを見ていた。


「……えっ、ちょっと、深川くん……もう授業始まってますよ」


先生が戸惑ったように声をあげると、青磁はすっとそちらに目を向けて、「こいつの」と私を指差した。


「具合が悪いみたいだから、連れてく。俺も帰って来ないかも」


勝手なことを言って教室を出ていく彼の背中を、先生は唖然とした顔で見送っていた。